<コラム1>子どもの成長を支える学校給食と牛乳 家庭で取り入れたい栄養のコツ
子どもたちの学校給食には、必要な栄養を取るための工夫が詰まっています。そして、日々の献立と共に口にする牛乳にも毎日飲むべき理由があるようです。3児の母であるフリーアナウンサー・中村仁美さんが、栄養教諭として長年にわたり学校給食にかかわってきた今井ゆかり先生に、給食と牛乳の役割や家庭でできる乳製品での手軽なカルシウム摂取のコツを聞きました。
話を聞いた人
今井ゆかりさん
栄養教諭
いまい・ゆかり。1981年埼玉県学校栄養職員として採用。2008年に任用替えで栄養教諭になり、22年退職。40年以上にわたり給食現場で活動した経験から現在は後進育成・指導にあたる。テレビ出演多数。
話を聞いた人
中村仁美さん
フリーアナウンサー
なかむら・ひとみ。1979年生まれ。2011年に人気お笑いコンビ「さまぁ〜ず」の大竹一樹さんと結婚、3児の母に。現在はテレビをはじめイベント出演など幅広く活動している。
世界的にも優れている日本の学校給食
中村 栄養教諭とは、どういった存在なのでしょうか。
今井 18年ほど前にできた職種です。それ以前にも管理栄養士・栄養士は学校栄養職員として小学校や中学校で活動していたのですが、栄養教諭は授業計画の段階から参画できる教諭職となったことが大きな違いです。家庭科のみならず、給食を題材とした食育に関係すれば総合、社会、理科、国語なども対応します。私は埼玉県の草加市の小学校で長く栄養教諭を務めていますが、毎年3年生に草加の名産である枝豆にまつわる授業をします。そんな時は地域の生産者とメーカーなどに協力を仰ぐコーディネーターとして動くこともあります。
中村 色々なところに目を配る仕事ですね。やりがいはどんなところですか。
今井 やっぱり、給食を食べた子どもの「今日おいしかったよ」の声ですね。
ある日の今井先生の学校給食。左はイカ、右はクリームソースのおかずを使った献立
中村 確かに、すごくパワーをもらえそうです。私の時代を思い返すと、栄養の先生と会話をした記憶がありません。でも今は授業も担当されていると。しかも「全国学校給食甲子園」にも参加されて賞も受賞されたと聞きました。
今井 「日本の給食のよさを知ってもらう」ことを第一の目的として、学校給食を調理している学校および学校給食センターに勤務する栄養教諭や学校栄養職員らが集う大会です。出場時には栄養バランスが良い献立を地元の食材を使いながら考えて、食育の成果などもエントリーシートにつけて提出します。栄養教諭の仕事全般ができていないと勝ち上がれない内容です。私も何度か出場していますが昨年度は埼玉県代表になり関東の代表として決勝に残りました。全国では1355校がエントリーした中で優秀賞受賞という成績でした。
中村 すごい、おめでとうございます! 「日本の給食のよさ」という部分、とても興味深いです。日本の給食は海外と比べてどんなところが優れているのでしょう。
今井 まず給食当番という仕事がとても評価されています。仕組みとしての特長は、こちらが提供したものを食べることですね。欧米ではカフェテリア方式のランチが多く、極端な例では山盛りポテトにケチャップとコーラだけを選んでも良いのです。でも、日本は管理栄養士・栄養士が栄養計算をしたものが提供されますから、栄養バランスが良い献立を口にできることになります。
中村 一定の価格に決められている中で、長いスパンで栄養を考えて提供できるのはすごいことですよね。どんな工夫をしているのですか。
今井 組み立てとしては主食を決めてから魚などメインのおかずを決め、野菜類が足りないから野菜スープをつけるという具合です。栄養バランスと食品の種類の多さも気にかけて考えます。
中村 母親としては、本当にありがたいです。逆に言うと学校できちんと食べてくるから、夜は少し簡単にとか、土日は手軽に済ませたいなんて考えてしまうことも(笑)。最近の子どもたちの栄養状況はどうなのでしょうか。
今井 給食がメインのバランスになっている家庭もあります。エネルギーが取れているかどうかは両極端です。栄養素で見ると、カルシウムを含めたミネラル、ビタミンが不足しがちですね。野菜が圧倒的に足りないように思います。全体的に、長い休みの時期にバランスが崩れる傾向はあります。
給食と一緒に提供される牛乳の役割
中村 カルシウム不足ということですが、給食はそのあたりも考慮していると。
今井 給食の各栄養素の摂取量は文科省が基準を設定していて、カルシウムは1日に必要な量の50%が給食の中で取れるようになっています。カルシウムは日本人が取りにくい栄養素なので、給食で十分に取らせようという狙いがあります。しかし、カルシウムを料理だけで基準通りに取るのは大変なので、必ず牛乳がセットです。牛乳なしでは、とても組み立てられません。
中村 1本飲んでおくだけで、かなりの栄養が取れるということですね。
今井 牛の赤ちゃんが大きくなるための栄養ですからね。人間の子どもが育つために必要な栄養もバランスよく含まれています。しかも牛乳は、カルシウムが体に吸収しやすい形で含まれているので重要です。
中村 子どもの頃にカルシウムを取るのは大事ですか。
今井 成長期ですから意識したいですね。その子の持っている成長の可能性いっぱいまで育つには、そのための十分な栄養素が必要です。不足してしまうと、本当はもっと大きくなれるはずの子が小柄になってしまうことが起こり得ます。丈夫な体をつくるにはまずカルシウム、そして成長に必要なエネルギー等の栄養素をたくさん取ることが大事です。
中村 あまり最近の子は牛乳を飲むと聞かないのですが、実際はどうですか。
今井 飲む子はたくさん飲みますよ。ですが、飲まない子もいるので夏休み前の給食だよりには「家では1日200〜500mlぐらいの牛乳を飲みましょう」と書いて啓発しています。そもそも牛乳を置かないという家庭もあるので。
中村 冷蔵庫にないという家庭、きっと保護者が飲まないということですね。
今井 そうだと思います。この世代の家庭の冷蔵庫に牛乳がないというのは、何とかしたい問題です。骨密度というのは20歳ぐらいが最高値で、そこから下がっていくばかりなのです。30〜40代でも牛乳を十分に飲んでいれば、20歳ぐらいの骨密度を保てます。女性は特に、妊娠や出産でカルシウムを取られてしまうので、それ以前に骨密度を十分高めることと継続的に取ることで健康を保ってほしいと思います。牛乳が必要なのは子どもや高齢者だけではないのです。
JミルクのWebサイトから転載
出典:大薗恵一「骨粗鬆症予防に重要なカルシウム摂取」『小児科診療』第71巻6号、1006 診断と治療社(2008年)
中村 先生の学校には牛乳嫌いの子はいますか。どんなアプローチをするのでしょうか。
今井 1年生には飲めない子もいますね。小さいコップを用意して200mlの牛乳パックからそこに少し移し、「今日は飲めるだけで良いよ」というところから始めます。友達に励まされたりほめられたりしながら、だんだん飲めるようになります。2年生に上がる頃には、大体みんなが飲めますよ。
中村 当たり前のように出されると、飲めるようになるのですね。子どものうちに牛乳を飲む習慣をつけると、先々ずいぶんと差が出てきそうです。
今井 ええ。そこで私は平日朝に1杯、家族で飲んでいただくのをおすすめしています。朝がパンだけという家庭では、ぜひ牛乳をつけてください。カルシウムやたんぱく質、ビタミンB群も取れますから。この1杯で栄養バランスはグッと改善します。
休みの日にも牛乳! 楽しく飲む工夫を
中村 先生としては、土日や長期の休み中の栄養バランスは気がかりですか。
今井 休みの間に子どもたちの食事がどうなっているかは心配ですね。目安として牛乳をコップ2杯飲んでもらいたいです。すると、たんぱく質とカルシウムなどのミネラル、ビタミンB群が大体補充されます。あとはビタミンCも取ってほしいのでミカン1個、たんぱく源としてハム等もぜひ加えてほしいです。
中村 わかりやすいです。家庭で簡単にできる牛乳のアレンジメニューなどはありますか。
今井 牛乳プリンが良いですよ。私の場合、アガーというゼリー素材をよく使います。寒天やゼラチンに比べて、常温で固まるぐらいなので扱いやすく、牛乳と混ぜて冷蔵庫に入れたら簡単にすぐできます。
中村 少し砂糖を足しても良いですか。
今井 はい、お好みで。あとは学校の給食でも出していますが、枝豆やカボチャなどをペーストにしてそのプリンに入れるとなかなかおいしいです。サツマイモも良いですね。野菜と組み合わせる牛乳プリンは、子どもたちもあっという間に食べてしまいます。学校で出すと「先生もうちょっと大きいカップでつくって」と言われることあるぐらい。割とたくさん牛乳を使います。
中村 なんと、野菜と牛乳でおやつがつくれてしまう! 長期の休みに子どもとつくるのもよさそうです。牛乳は甘く感じるから、野菜と合わせてもちょうどよくスイーツになるんですね。子どもとつくってみようと思います。ほかにおかず系ではどんなメニューがありますか。
今井 ミルク煮は色々な食材でできますね。鮭や鱈をミルクで煮ると臭みが取れて子どもはよく食べます。市販のコンソメをスープとして鍋に沸かせたところに魚も大きな形のまま入れ、ジャガイモやニンジンなども入れて。スープと牛乳は半々ぐらいです。あとは塩こしょうで整えます。
中村 ぜひやってみたいです。我が家では牛乳でホワイトソースをつくったり、ラーメンに入れたりします。しょうゆ味のラーメンスープに加えると、見た目が豚骨のようになって、味もさっぱりした豚骨という感覚で。子どもが「野菜がおいしい」なんて言いながら喜んで食べます。ちなみに、火を通しても牛乳の栄養素は変わらないものでしょうか。我が家では飲むよりも、もしかすると料理から取っているほうが多いかもしれません。
今井 料理から取るのは理想ですね。加熱しても栄養はほぼ変わりません。ラーメンに牛乳は素敵なアイデアなので、ぜひ家庭で真似していただきたいです。皆さん休み期間の昼などはインスタント麺の登場確率が高いと思いますし、牛乳と野菜がたくさん取れるのはすばらしいです。
中村 そうですね。3食全てでバランスを取るのは、なかなか大変だと思います。最後にぜひ、頑張りどころがあれば教えてください。
今井 朝食ですね。これは睡眠を挟んで、長時間何も食べなかった後の食事だから。子どもたちは一日中成長しているので、栄養を取っていない時間をなるべく短くすべきです。体を成長させるには骨や筋肉のもとになるカルシウムやたんぱく質が必要で、そういう栄養素をバランスよく定着させたりうまく働くように消化吸収したりするにはエネルギー源も要します。だから、朝食で体に材料をいっぱい入れてあげてほしいのです。昨今朝食を軽めに済ませる人が多いのは残念ですが、そんな人こそ牛乳などで栄養を取ってください。
中村 毎日飲むべき理由がよくわかりました。ありがとうございました。
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