<コラム2>家族の元気につながる牛乳習慣を
牛乳を飲むとどんないいことがあるのでしょうか。
結果を知りたい方はぜひこの記事をお読みください。読み終えるなり、牛乳を冷蔵庫に常備するご家庭が増えるかもしれません。
牛乳の驚くべき「力」について、食育インストラクターの和田明日香さんと、女子栄養大学の上西一弘教授が語らいました。
子どもが休日に牛乳を飲まないワケ
上西一弘教授 和田さんは今、お子さんが3人いるんですよね?
和田明日香さん 上から12歳、10歳、8歳です。
上西 まさに成長期ですね。早速ですが、お子さんたちは普段、牛乳をよく飲んでいますか。
和田 「飲みなさい」と言ったことはないのですが、冷蔵庫に手が届くようになったころから3人とも自分たちの好きなタイミングで飲んでいます。イチゴをつぶして牛乳をかけるとかクッキーを浸して食べるとか。ちょっとしたおやつづくりのような感覚なのかもしれません。
上西 それはすばらしいですね。和田さんのようなご家庭は非常にまれで、子どもたちは家庭で牛乳を飲んでいない場合がほとんどなんです。
和田 そうなんですか? 驚きです。好きじゃないからでしょうか。
上西 「家に牛乳がないから」です。親御さんの意識によるところが大きいです。その証しに、子どもたちは学校給食で出る牛乳は飲んでいます。
給食の提供は一年の約半分で180日ほど。残りの約半年で牛乳を飲んでいないとなると、栄養状況にも影響が出てきます。例えば牛乳に含まれるカルシウム。中学生ぐらいだと一番必要になる時期ですが、学校給食で出ていても今の子どもたちは1本分(200ml)ぐらい足りていません。休みの日は給食がないことで、計2本分が足りていないことになります。
和田 そんなに足りていないんですね。特に足りていない栄養素はカルシウムですか?
上西 そうですね。栄養状態の傾向で見ると、エネルギーは足りているけれどカルシウム不足で、やや肥満の子どもが増えている印象です。けれどそれも二極化していて、ダイエットなどで満足に食べていない子どもも一定数います。小学校の高学年ぐらいから女子が食べなくなってきますね。
(出典)Asakura K, Sasaki S. Public Health Nutr.2017;20(9):1523-1533をもとに、Jミルク独自に作成
和田 カルシウムを一番手っ取り早く補う方法は、やはり牛乳なんですね。色々な食材をバランスよくということを基本に、補うなら牛乳。小学校高学年は第二次性徴の時期にも差しかかりますし、カルシウムは積極的に取ってほしいですよね。魚や豆も食べてもらいつつ、牛乳はこれさえあればという安心材料。「お守り牛乳」とでも言いましょうか。
上西 飲み続けることが大事ですね。女子の場合は小学校高学年ぐらいから骨が急激に成長してきて大人の骨になっていきます。その時にどれだけ骨の中身が詰まっている状態にできるか。それが将来骨折しないかどうかを左右するので。カルシウムを貯めておかないと、20歳以降からはそれ以上貯まらないし身長もほぼ伸びません。私の大学の学生でも1年生の入学時と4年生の卒業時に骨密度を測ると、下がっている学生も多いです。
和田 その数年で! そんな若いのに。
上西 ただ、運動している学生としっかりカルシウムを取っている学生は維持できています。そこで維持していないと閉経期ぐらいからどんどん減ってすぐ骨折してしまうと。ですからご家族で牛乳を飲んでいただきたいですね。子どもたちにも大事ですが、お母さんにもすごく大事です。
和田 牛乳は子どもの飲み物というイメージがあったのですが、大人にも大事なのだとわかりました。
上西 高齢者も含め、今日本人は全ての世代でカルシウムが足りていません。こう言うと「サプリメントでいいですか?」と聞かれることがありますが、それではカルシウムしか取れません。栄養素はやはり食品から取るのが基本です。牛乳であれば、この中にタンパク質もビタミンも入っていますから。日本人が全員、毎日1本の牛乳を飲んでくれたら、骨折でかかる医療費はすごく削減できると思うんです。きっと5分の1ぐらいになるはずですよ。毎日、あと200mgのカルシウムを取ろうという呼びかけもありますし。
和田 牛乳瓶1本、それぐらいなら飲めそうですね。
「牛乳の魅力」って!?
和田 牛乳の魅力って、飽きないところだと思います。いろんな飲み方がありますよね。コーヒーを飲むようになってからは、たっぷり牛乳を入れて飲んでいます。牛乳のようにしっかり飲み心地のあるものをお腹に入れると動くエネルギーになりますし。朝はとりあえずその1杯をお腹に入れて、忙しい時間を過ごす感じです。
上西 手軽に取れる上に、吸収率が高いのも特長です。たくさんカルシウムが入っている食材なら葉野菜でもいいじゃないかと思われますが、牛乳ほど吸収できないので。あとはたんぱく質やビタミンなども入っています。ただ完全食品ではありません。何が足りないか、わかりますか。
和田 何でしょう、きっと大事なもの……。すみません降参で。
上西 答えは鉄です。
和田 乳なのに、もとは血なのにですか。
上西 はい。ただ、赤くないですよね。つまり赤血球は入っていないので、鉄分が少ないんです。あとは食物繊維なども。だから、他の食品と組み合わせる必要があります。
和田 「色々と栄養素は入っているけれど一部足りないものもある」と言われたら、逆にそういう食材をあわせようということで、メニューを考えやすくなりますね。朝、牛乳と冷凍ご飯にハムやチーズを入れたらすごく簡単にリゾットができますし、これに鉄や食物繊維のある食材を合わせれば栄養もバッチリだと。それと私、牛乳は料理をする時の影の立役者的な存在として気に入っていて。日々使える調味料だと思っています。毎日どんどん使っていきます。
上西 いいですね、どんどん広めていただきたいです。
和田 吸収率は乳製品で違いがありますか。
上西 牛乳、ヨーグルト、チーズなど、どれもカルシウムの吸収がよくなる成分が入っているので変わりません。牛乳でお腹がゴロゴロする場合には、ヨーグルトやチーズを使ってもらうといいですね。
和田 スキムミルク(脱脂粉乳)はどうですか。私はあまり使ったことがないのですが。
上西 牛乳から脂肪を除いて水分を抜いたものなので、カルシウムやたんぱく質など必要なものは入っています。
和田 じゃあ、むしろヘルシーですね。パン以外に使ったことがないんです。とろみや臭いなどもないのであれば「たんぱく質・カルシウムふりかけ」という感じでしょうか。ある程度の量なら、スープに入れても気にならないでしょうし。使ってみようかな。
脱脂粉乳を手に取る和田明日香さん
親子でおいしく楽しむこと
和田 土日ミルクの啓発ツール(「カルシウム200+をとろう!」のリーフレットとシール)、初めて見ました。トッピングメニューも色々載っていますね。30日チャレンジするシールもかわいい。
上西 牛乳・乳製品は楽しく身近なものとして取り入れてもらいたいですね。その一時だけではなく習慣として定着することが大事なので。できれば普通に飲めるのが一番、そこに色々なバリエーションがあるのが理想です。工夫しないと飲めないというのは、なかなか大変ですから。
「土日ミルク」啓発ツール
食育教材のリーフレットとシール。リーフレットは“給食の牛乳”の大切さやカルシウムのはたらきについて学べ、牛乳に身近な食品をトッピングして楽しむメニューも掲載。いつものコップにシールを貼れば「カルシウム200+コップ」に。あらかじめ計量カップで200mlをはかっておき、コップに注ぐ。その高さにそろえてシールを貼ることで、毎日飲みたい分量が一目でわかるように。シール台紙裏面は30日間チャレンジとして使えて、飲むたびにシールが貼れる習慣化サポートアイテム。なお、リーフレットはJミルクのウェブサイトでダウンロードができます。
和田 確かにそうですね。あと、張り切らなくてもいいのかなと。保護者向けの食育がテーマの講演会などで話をする時、構えなくていいですよと伝えるようにしています。食育は子どもに教え込むことではないと思っているんです。「牛乳はカルシウムが豊富で」「一日200ml足りなくて」と言うよりも、大人が隣でおいしそうに飲んでいる姿を見せることのほうがずっと大事。
上西 その通りだと思います。食育は押しつけるものではないですね。こう食べなさい、こうしなさいではないと感じます。楽しくおいしく、体にいいものを食べるということで。私は栄養学の視点で色々とお伝えはしますが、一般の皆さんにアドバイスするなら「冷蔵庫に入れておきましょう」「家族で一緒に飲みましょう」です。
和田 もちろん、知識を持っておくのは大事だと思います。先生のお話もとても興味深かったです。こうして得た知識は、自然な食卓での会話の中で伝えたいですね。例えば身体測定で「前回は何センチ伸びたのに今回はこれだけだった」という会話があった時、「それは牛乳が足りなかったのかもしれないね」と、知っていれば言えます。子どもにとって、そうやってタイミング良く授けられた情報のほうが、先々自分で考えて選ぶことにつながっていくと思うんです。やはり、自分の意志で飲んでほしいですから。今日のヒントを胸に留めて、ここぞという時に出していきたいと思います。
上西一弘/うえにし・かずひろ
女子栄養大学栄養学部教授。専門は栄養生理学。カルシウムの吸収をはじめ、骨と健康に関連する研究を続けている。著書に『NHK出版 健やかな毎日のための栄養大全』などがある。
和田明日香/わだ・あすか
料理家・食育インストラクター。1987年生まれ。結婚を機に修業を重ね、食育インストラクターの資格を取得。現在はレシピ開発やイベント出演など精力的に活動する。3児の母。近著の『楽ありゃ苦もある地味ごはん。』が好評発売中。